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お不動さん

お不動さん
 その昔、といっても浦島太郎ほどの昔ではなく、10年ほど前のことであるが、師と仰ぐ嵯乃庭慈泉(さのいえ・じせん)尼から「お不動さんを描きなさい」と言われたことがある。そのいきさつは、こうであった。
 師から色紙をいただいたのだが、そこに描かれていたお地蔵さんがあまりに見事だったものだから、感動して少し真似て描いてみた。
 何度か描いているうちに、そこそこの感触が得られたので、お会いした折に見せてみた。しばし見つめられた後、師は
「ダメです。早川さんはお地蔵さんになってはいけません。厳しいことを自分に課しているんでしよう。そのために、ここに来て学ぼうとしているんでしよう。自分のためだけに学ぼうとしているんですか。それならお手伝いしたくないなぁ。お地蔵さんではなく、お不動さんを描きなさい」
とぴしゃりと仰言られた。
 以来、お不動さん(不動明王)に関心を寄せる一方、何度か挑戦してみたのだが、まるで形にならない。

不動明王「五大明王・八大明王の一。大日如来が一切の悪魔を降伏するために忿怒の相を現したもの。色黒く目を怒らし、両牙を咬み、右手に降魔の剣を持ち、左手に縛の索を持つ。」(『広辞苑』より)

 それが今回、アキレス腱断裂というアクシデントにより入院することになったのを機会に、スケッチブック、 筆記具等を持ち込んで、挑戦してみようと思いたった。
 1作目、まるで形にならない。
 2作目、少しはましになったが、線のオドオドはいかんともなしがたい。
 3作目、オッ、やればできるじゃないか、という感触を掴む。
 4作目、小さなところまで神経が行き届くようになる。
 そしてお見せするのが5作目。自分で言うのははばかられるが、ここまで描けるとは思ってもみなかった。大満足である。
 今、師にお届けしてご意見を求めているが、今後の課題は「忿怒」のうらに秘められた「慈愛」をどう表現するか、であると思っている。
 「税理士だったら、お地蔵さんではなく、お不動さんを描きなさい」といわれた言葉が、今、身に沁みて理解できるようになっている。
 理解するまでに10年。相当にぶいのかなあ。

▼その他のお不動さん

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(本稿は近畿税理士会広報『近畿税理士界』平成14年5月号に掲載されたものに一部加筆しました。)