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税理士早川嘉美事務所 開設35周年記念講演/未来を見つめる三つの目 税制の未来・講演録

講演録に寄せて

本稿は記念講演を収録したものです。お読みいただく場合、レジュメをプリントして対比させながら、お読みいただければわかりやすいかと思います。なお、発表にあたっては、できる限り専門用語を使わないで、平易な言葉で発表していることをあらかじめお断りしておきます。

税理士早川嘉美事務所 開設35周年記念講演「未来を見つめる三つの目」「税制の未来」

税理士/早川嘉美
税理士早川嘉美事務所開設35周年記念講演「未来を見つめる三つの目」「税制の未来」 税理士/早川嘉美

本日はご多忙のところをお越しいただきましてありがとうございます。本来なら、ここで皆さんに御礼のご挨拶をすべきところですが、皆さん、まだお揃いでないうえ、時間的な制約もありますので、ご挨拶は3部の頭でさせていただくことにして、早速本題に入らせていただきます。

テーマを「未来を見つめる三つの目」としました。税制から、会計から、そして国家から、という大胆なテーマを、それぞれ持ち時間20分で試みようというものでございます。
少しお断りしておきたいのは、今日の主張は35周年記念がメーンですので、税制の現状を説明したり、税制の不備、不満を批判しようというものではなく、税制はどうあるべきか、実現可能であるとか、できないかではなく、あくまで「こうあって欲しい」という願望、理想から、申し述べさせていただきます。

もう一つお断りしておきたいことがございます。
このあと、前原先生に国家の未来を語っていただくことになっていますが、私は、現場の税理士として、まさに・(点)から、これからの税制について考えてみますが、前原先生は天下国家からみた国家の未来を語っていただくわけであります。従って、この両者の間にはおのずから大きな違いがあると考えられます。
これは、むしろ当然のことであって、この違いを受け入れて意見交換ができるか。まるで違うじゃないか、ではなく、違うからこそ、面白いと思うのであります。

そうだからこそ、前原先生も少しくらい私に魅力を感じていただいているのかもしれない(笑い)し、私は、先生に大きな魅力を感じているのであります。
私の今日の主張は、いずれ日本の代表となられるであろう先生にお聞きいただけるというこの上ない光栄を感じながら、語っていこうと思います。

「税制の未来」主張にあたっての基本理念

本日の提唱は最後にさせていただくことにして、まず、税理士の現場から、現状を少し見ていきたいと思いますが、その前に、基本理念として3点を述べてみたいと思います。

1 (憲法第29条? 30条? 84条?)
このように、私有財産の保有は憲法で担保されています。唯一、これを覆すものとして、税金があります。そして、税金は租税法律主義によって厳しく制限されているのであります。これらについては、今さら言うまでもないことですが、私がここで言いたいのは、最後の1行、「税金は取り過ぎてもいけないし、少なすぎてもいけない」のであります。

2 国の政策、方向性、ベクトルに、租税政策が背を向けてはいけない、国の政策と租税政策が相反してはいけないと考えます。

わが国の経済を支えるのは中小企業であるといって、過言ではないのではないでしょうか。国家もあげて、起業家育成、再生支援、再チャレンジを掲げて、中小企業支援体制をとっています。
しかるに、税制の動きはいかがなものでしょうか。財政不足を殺し文句に、しばしば、国家のベクトルに反して、中小企業に足かせ、手かせを強いる税制があります。

中小企業の活性化こそが大切なのであって、中小企業をいじめる税制を取ってはいけないと主張します。
具体的には、のちほど事務所で発生している事例を見てみたいと思います。

次は、納税者の立場から考えます。

3 私の持論である「節税という美名のもとに人生を変えてはいけません」について述べてみます。

以前、若いお医者さんが高い税金にネをあげ、ワンルームマンションを買って節税対策をしようと、相談に見えたことがありました。
プランを聞いているうちに、直後にアメリカに留学が入っていることが判りました。私の提出した提案書には、次のように記されていました。

節税対策がもしうまくいかなかったら、どうするのですか。そんなことになれば、気になっていい留学生活が送れないじゃないですか。そして記したのが、冒頭の「節税という美名のもとに人生を変えてはいけません」でした。

果たして、その後、バブルの崩壊があり、購入しなくてよかったということになりました。でも、それは結果論であって、私の言いたいことは節税というチッポケなことで、人生の大目標にマイナスを与えてはいけないというのであります。

税理士らしからぬ言葉で、誤解を生むかもしれませんが、踏み込みすぎた節税より、少々のムダな税金を納めるほうが、人生にとってリッチなのかもしれないと思うのであります。

少し事例から、税制のゆがみを見ていきたいと思います。

1 まず、消費税を取り上げます。
消費税は、受け取った消費税から、仕入れや経費にかかった消費税を差し引いて、その差額を納めるのであります。これが大原則であります。

ところで、中小企業者には簡易課税という制度があります。簡易課税制度は仕入れや経費にかかった消費税を「みなし率」で計算してもよろしい、という制度です。
これは、中小企業の会計の負担を軽減しようという主旨からでている施策ですが、これがクセモノで、しばしば、本来納めるべき消費税より多くなってしまう場合が出てくるのです。

私がここで言いたいのは、税金の計算にあたり、国が損をするか、国民が損をするかで、ぶつかったとき、憲法の精神に従って、断じて国民に対し、本来納めるべき金額を上回る税金を課してはいけないということであります。
事業者が徴収した税金より、多くの税額を納付しなければならなくなる、という制度は断じていけないのであります。

2 90年、バブルがピークに達したのは、明らかであります。そのすごさは、表(PDF)を見ていただき確認していただきたいと思います。

問題は、この90年において、相続が生じた場合であります。数年後に相続が生じていれば、まるで問題なかったのですが、この年に相続が発生した方に、大変な相続税負担になっています。まさに悲劇としかいいようがないほどの事態が生じています。

一昨年、これ以上持ちこたえるのがムリだということで、90年に相続した土地を売却された方がおられます。その結果、1円も残らずに、相続税の一部がいまだ未納という借金だけが残りました。
こんなケースの場合、国として救済措置が講じられないものか、と提案したいものであります。

3 次は、法人税 オーナー法人といわれる制度について考えてみます。
06年5月、会社法が改正され、1円資本金法人の設立が可能になりました。この制度の求めるところは、資本の充実のない若者にも、起業意欲を促し、経済界の活性化をはかり、就労機会の促進を図ろうというものであります。

ところが、法人税法は、こうして設立された企業は、法人税の特典を著しく享受する、ということで、課税強化を打ち出しました。特に充実した企業に対し、課税強化を打ち出したのであります。
このため、法人を設立したほうが損をするという考えが浸透してしまいました。

なぜ、こんなことをしてしまうのでしょう。

市場の活性化、就労機会の促進を図るなら、充実した企業こそ褒め称えるべきなのに、なぜ、ペナルティ的に課税強化で応えなければならないのでしょう。

特殊支配同族会社の具体的な内容は、レジュメに記していますが、この課税強化を従来からの会社にも適用してしまいました。
財務省は、当初、該当する企業は5?6万社であり、中小企業に与える影響は少ないとしてきましたが、いざフタを開けてみれば、11.7万社だったのです。
このため、中小企業関係者の猛反発を受け、法施行前に制度を縮小しましたが、あってはならない制度です。

国が、起業せよ、中小企業再生、再チャレンジを重点政策に掲げているときに、なぜ、数少ない優良中小企業にペナルティ的な課税強化で応えるのでしょう。
政府は本当に中小企業のことを考えているのでしょうか。

前原先生がおられるからいうのではありませんが、次ページに民主党税制改革大綱を掲げておきました。
これによると、「特殊支配同族会社の役員給与の損金算入措置は廃止した上で云々」と記されており、意を強くするものであります。

4 役員報酬はなぜ実情にあわせてはいけないのでしょう。
皆さん、社長の給料は当然 経費ですよね。社長の給料が経費でないと誰もが思っておられないでしょう。
でも、法人税法の考え方は違います。

法人税法では、本来経費にすることができないが、法人税法の規定に従って処理すれば経費にしてやろう、という、まるで逆の発想です。
皆さん、ホントにこれでいいのでしょうか。

中小企業の現状は本当に厳しい。なかなか成績があがらず、社長の給料をカットしてでも企業を守ろうとする。それを、法人税法は許さないという。
逆に、今まで苦しんできたけれど、ようやく一息ついてきたので、社長の給料を戻そう、アップしようとする。これも許さないという。

定時総会で決めた役員給料は、1年間、変えてはいけないというのであります。
上げるのは、非常勤が常勤になったときや、社長が亡くなるなどのため、代表取締役に就任したとか、いわゆる職務が変わったときに限るというのです。また、下げるのは、著しく成績が下がった場合にのみ、OKだというのです。
著しくとは、おおむね半分を意味します。単に目標に達しない、昨年より落ち込んでいる、だけではいけないというのであります。

考えてもみて欲しい。中小企業が、成績が悪いのに社長の給料を減額して対処しないと金融機関から、厳しい指摘を受けることになることをー。従わないと、金融機関から厳しいお叱りを受けるだけではなく、キャッシュフローに支障をきたしかねないことをー。
中小企業には、もっと自由にさせ、活力を与えるほうがいい、と思うのであります。

5 もう1点。所得税、譲渡所得の損益通算を取り上げます。
国は、再チャレンジをキーワードに、企業再生に力を注いでいます。でも、本気でそう考えているのか疑わしいと思う税制があります。

所得税、土地の譲渡損益の通算を認めない、というのが、それであります。詳しいことは資料をつけていますので、ご覧いただくとして、なぜ、損益通算を認めないのでしょう。
事業が苦しいから、手持ち不動産を売却して、その売却代金で企業を立て直そうと計るにも、事業の欠損は何ら考慮してくれず、売却に税金をかける。これでは、企業再生は難しいではありませんか。

その逆、所有不動産の保有が難しい、幸い事業が好調なので、土地を損を覚悟で売却し、事業の安定を図ろうとすると、事業の利益に税金をかけ、不動産売却の欠損はまったく考慮してくれない。
こんなシステムで、なにが、企業再生、再チャレンジなのでしょうか。

具体的に考えてみましょう。
事業のために買った不動産の譲渡損益は、事業損益そのものではありませんか。
なぜ、そんなことも損益通算できないのでしょう。まったく理解に苦しみます。

以上何点かみてみましたが、35周年にあたって主張したいのは、これから述べる事項であります。今までお話したことは、これを明確にするためであります。

1 税制の立案にあたっては、納税者、国民に損失を与えるような制度を取ってはならない、と主張します。
消費税簡易課税の矛盾、所得税の譲渡損益が他の所得との損益通算ができない矛盾、といった例を取り上げて指摘したところです。
憲法の精神は、税を取りすぎてもいけないのであります。
これをしっかり把握した制度であるべきと主張します。

2 国家のベクトルに、税制が相反した施策をとってはなりません。
ここでは、国家の政策が良いとか、悪いとか、そういうことを取り上げているのではなく、国家の進めているベクトルに、税制が逆行してはいけない、ということを主張しているのであります。

3 国の失政が明らかである場合、国民の負担を最小限に補う緊急措置を講じるべきだと提案します。

皆さん、こんなことを言うと、今、問題が山積の社会保険庁でもあの体たらくなのに、そんな不可能なことをいってもダメだ、と思われるかもしれませんが、そうではありません。
今回の騒動となっている道路特定財源の暫定税率廃止に伴い、ガソリンスタンドの経営に支障をきたすであろうということで、福田首相が緊急措置を講じるように指示したと報道されているのが、まさにこれであります。
この考え方を目先の対応で捉えるのではなく、グローバルに考えて、取り上げるべきだと言っているのであります。

なにも、国民の悲劇は天災事変だけではありません。国民の悲劇は、国家の失政にもあることを知っておきたいと思うのであります。

4 中小企業の活性化は、わが国に欠かせない最重要課題だと思います。これをしっかり押さえて、中小企業の活性化を第一義とした施策を大切にし、手かせ、足かせになるような制度はするべきでありません。

5 次は、国民の観点から述べてみます。
納税者、国民は、法の盲点、スキマを最大解釈する「節税」は人生を誤りかねないことを知り、一方では、こういった行為が、税制度をさらに複雑にし、ゆがめていくものになっていくことも少しは考えたほうがいいと提案いたします。

6 最後に、レジュメには掲載していませんが、もう一つ追加させていただきたいことは、税金がどのように使われているか、このことを、国民はもっと知るべきことが大切なのではないでしょうか。
それが、税制を正しくしていけると思うのであります。

現に、道路特定財源の暫定税率について、道路以外にふんだんに使われていることが、国民の怒りを買っていることでも明白です。
私は、この動きを所得税、法人税、消費税、相続税にも広げていくべきだと提案します。つまり、国家の歳出チェックにも目を向けるべきだと提案して、発表を終わらせていただきます。

以上です。今日は記念講演ですので、言いっぱなしということになりますが、でもこんなことを根底で考えながら、日々の事務所運営にあたってまいりたいと存じます。
そして、体力、気力、胆力をしっかり持って、皆さんの事業にお役に立つよう懸命に努力してまいります。
今日は本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたしまして、発表を終わらせていただきます。

ご清聴ありがとうございました。

税理士早川嘉美事務所開設35周年記念講演「未来を見つめる三つの目」「税制の未来」 税理士/早川嘉美

2008.4.4 35周年記念講演から